需給事情の減点補正率

需給事情の減点補正率


固定資産評価基準(需給事情の減点補正率)

・固定資産評価基準第2章第1節2(評点数の付設)
各個の家屋の評点数は、当該家屋の再建築費評点数を基礎とし、これに家屋の損耗状況による減点を行って付設するものとする。この場合において、家屋の状況に応じ必要があるものについては、さらに家屋の需給事情による減点を行うものとする。

・固定資産評価基準第2章第3節6(需給事情による減点補正率の算出方法)
需給事情による減点補正率は、建築様式が著しく旧式となっている非木造家屋、所在地域の状況によりその価額が減少すると認められる非木造家屋等について、その減少する価額の範囲において求めるものとする。


需給事情の減点補正率に関する判決

平成23年12月9日に最高裁判所第二小法廷において、島根県邑南町のゴルフ場クラブハウスの固定資産評価で需給事情による減点補正が争われた事件について、広島高等裁判所松江支部の上告を棄却する判決がありました。

裁判の流れ
平成22年4月26日 松江地方裁判所において、原告がクラブハウスの需給事情による減点補正を求めていた判決で、原告側の考えが認められました。
平成23年1月26日、島根県邑南町は、広島高等裁判所松江支部控訴しましたが、控訴が棄却されました。
その後、島根県邑南町が最高裁判所に上告し、上記判決となったのです。

この判決でクラブハウスの需給事情による減点補正の補正率として裁判所が指名した鑑定人の鑑定評価額をベースに58%という数値が提示されました。
これにより、クラブハウスの固定資産評価額に需給事情による減点補正率58%を乗じた金額を超える部分は違法と判決されたのです。

この需給事情による減点補正率は、積雪の多い地域における家屋などかなり限定的に適用されてきており、多くの市町村では適用してこなかったのが実情です。したがって、需給事情による減点補正率を適用してこなかった多くの自治体にとってこの最高裁判決は意外に受け止められているようです。

固定資産税は、固定資産の資産価値に着目し、その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税であって、個々の固定資産の収益性の有無にかかわらず、その所有者に対して課するものであるから、課税標準とされている固定資産の価格である適正な時価とは、正常な条件の下に成立する当該不動産の取引価格、すなわち、客観的な交換価値をいうと解されています(最高裁平成15年6月26日第一小法廷判決)。しかし、上記は土地に関する考え方と読み取ることができ、建物の固定資産評価は、その評価方向から客観的交換価値ではなく使用価値に対して課税されるという考え方があります。これは、建築後、50年以上経過しても、20%の価値が残存するような規定を見ても、建物は使用価値という印象を持つ人は多いと思います。
しかし、松江地方裁判所、広島高等裁判所松江支部は、家屋の適正な時価は土地と同じで客観的交換価値と判断しています。ここは、今後の裁判で、はっきりしてくると思います。

今回の、58%という需給事情の減点補正率を導くため、不動産鑑定評価を行っているのですが、不動産鑑定で収益価格を鑑定評価額の決定で考慮している点は、注目すべきと思います。不動産鑑定評価の世界では当たり前のことでしょうが、ゴルフ場の固定資産評価の世界では運営者の経営能力に影響がある収益性からのアプローチが、今まで否定されてきた印象が強いからです。

今まで、あるいは最近のゴルフ場の固定資産評価に関する多くの訴訟において、ゴルフ場の収益還元法による評価は適正な時価と認められてこなかったのが大半であり、この最高裁判例の考え方は、全てのゴルフ場に当てはまらないと考えた方が良いかもしれません。


邑南町のゴルフ場クラブハウスの評価が争われた事件

1.この裁判のポイント
リゾート会社が、ゴルフ場の固定資産評価に不服があり、邑南町固定資産評価審査委員会に申出たところ、審査委員会において土地についての申出を棄却し、建物についての申出を却下する旨の決定がされたため、邑南町に対し同決定の取消しを求めたました。土地については、評価基準に定める評価方法に従って求められており、その価格は適切であると認めた一方、建物については、評価基準に定める評価方法に従って時価を算定する際に、需給事情による減点補正を行う必要がなかったと認めることはできないとして、これを行わずに算定された建物の価格は評価基準に基づく価格を超える違法があるとし、裁判所は原告の請求を一部認容しました。

2.原告の主張
(1)土地について
評価基準におけるゴルフ場の評価は、ゴルフ場を開設するに当たり要したゴルフ場用地の取得価額に造成費を加算した価額を基準としている。しかし、現在ほとんどのゴルフ場は厳しい経営状態に置かれており、その価値は土地の買収時の予想とは異なり著しく下落しており、評価基準による算定方法は不合理である。また、評価基準におけるゴルフ場の評価は、取得価額に造成費を加算した価額を基本とし、ゴルフ場の位置、利用状況等を考慮して評定するものとされているが、現実には本件の被告も含めて、課税団体はこの補正の適用に消極的である。このような運用状況に照らせば、ゴルフ場の評価基準は、評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものではなく、その評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存する場合に該当するというべきである。

(2)建物について
評価基準に定める需給事情による減点補正の適用は、限定的とされるべきものではなく、その評価が建物に対する需要を反映しなくなった場合にも、広く適用しなければならないものである。クラブハウス、寄宿舎等は、ゴルフ場とともに利用されるのみであり、ゴルフ場の利用状況によってその価値が大きく影響されるため、ゴルフ場経営の悪化によりゴルフ場としての価値が下がると、それに件って建物価値が下がるものであり、そのため本件建物は特殊な物件であるといえ、需給事情による減点補正が行われるべきである。しかしながら、邑南町は本件建物について需給事情による減点補正を行っていない。

3.被告の主張
(1)土地について
土地の評価における評価基準に定める評価方法は、客観的交換価値を把握する方法として合理的なものであり、また当該評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情も存在しない。従って、本件土地の登録価格は、評価基準に定められた評価方法によって適切に算定された価格である。

(2)建物について
本件建物の登録価格は、評価基準に定められた評価方法に従って適切に算定されたものである。評価基準において、需給事情による減点補正率は、建築様式が著しく旧式となっている非木造家屋、所在地域の状況によりその価額が減少すると認められる非木造家屋等について、その減少する価額の範囲において求めるものとするとあり、具体的には需給事情による減点補正率は、次のような家屋に適用するものとされている。

①草葺の家屋、旧式のれんが造の家屋その他間取り、通風、採光、設備の施工等の状況からみて最近の建築様式または生活様式に適応しない家屋で、その価額が減少すると認められる地域に所在する家屋
②不良住宅地域、低湿地域、環境不良地域その他当該地域の事情により当該地域に所在する家屋の価額が減少すると認められるもの
③交通の便否、人口密度、宅地価格の状況等を総合的に考慮した場合において、当該地域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋

本件建物は、評価基準に定める需給事情による減点補正が必要となる場合に該当しておらず、この点について何ら問題はない。

4.裁判所の判断
(1)土地について
本件土地の登録価格は、固定資産評価基準に定められた評価方法に従い価格が算定されていることが認められ、その算定の過程における取得価格や造成費の決定、位置・利用状況等による補正は、不動産鑑定士による鑑定評価書に基づいて行われている。
本件土地の評価額の算定過程に特段不自然かつ不合理な点も見当たらないことからすると、その登録価格は、評価基準の定める評価方法に従って適切に算定されたものと認めることができる。

(2)建物について
本件建物の登録価格について、被告は本件で需給事情による減点補正が必要でないと判断した理由について、単に通達に定められた基準にあてはまらないためであるという主張をするにとどまる。この点、平成18年において実施された不動産鑑定士による鑑定評価では、クラブハウスは、本件ゴルフ場と一体利用されてはじめて機能性を発揮することができる建物であり、ゴルフ場から分離した場合には利用者が極めて少なく、他の転用の可能性が考えられないため、市場性は低く、需要はゴルフ場の需給動向に左右されること、ゴルフ場は島根県の山間都にあり、冬季の1月から2月は閉鎖期となり、12月でも積雪が多い場合には閉鎖されること、ゴルフ場の付近に集客力のある著名な観光施設は少なく、都心部からの距離からしても集客力が弱いこと等の地域の特殊性を市場性減価として考慮しており、当該減価は固定資産評価基準における「需給事情による減点補正率」と同様であると考えられ、これは本件建物全てにあてはまると推測される。これにより、本件建物について、評価基準に定める評価方法に従って時価を算定する際に、需給事情による減点補正を行う必要がなかったと認めることはできないから、これを行わずに算定された本件建物の登録価格は、評価基準に基づく価格を超える違法がある。従って、本件建物の登録価格につき、裁判所が認定した適正な時価を超える部分については、これを取り消す。